カルケドン・レポート翻訳




カルポクラテス主義者


R.J.ラッシュドゥーニー


 近年、筆者は、カルポクラテスとカルポクラテス主義者について考える機会を数多く与えられました。というのも、次から次へと現れては消えていく新しい運動や個人を見るたびに、この哲学者とその主義を思い出さずにはおれないからなのです。カルポクラテスは、ハドリアヌス帝(紀元117−138年)の時代に活動したグノーシス派の思想家でした。彼にとって、イエスは、一人の尊敬すべき、知的なグノーシス派の哲学者であり、処女降誕によって生まれたのではなく、霊的に高次の水準にまで上った純粋な心を持つ人間でした。人間はだれでも努力次第でこの水準に達することが可能なのであり、イエスは、宗教的天才であると説きました。

ユダヤ人嫌いの彼は、イエスも反ユダヤ主義者であり、ユダヤ人の「迷信」を超越した人間である、と述べました。カルポクラテス主義者は、祭壇にイエスやピタゴラス、プラトン、アリストテレスなどの像を安置していました。だれでもイエスの水準に達することができるし、場合によっては彼を越えることだってできると述べました。カルポクラテスやその追従者たち、そして、非常に多くの異端や異教の信仰者たちは旧約聖書と旧約聖書の律法を否定していました。

彼らは絵画やイコンの使用に夢中でした。カルポクラテスとカルポクラテス主義者たちのねらいは、イエス・キリストを当時の文化に適合させることにありました。つまり、イエスをグノーシス主義やギリシャ・ローマ文化に合うように作り替えようとしていたのです。受け入れやすい「歴史的」イエスはこのようにして作られたのです。「歴史的」と述べたのは、イエスがその当時流行していた世界観・人生観に合うように作り変えられたからです。このようにして、グノーシス的、ギリシャ・ローマ風イエスが誕生しました。しかし、そのようなイエスも、ギリシャ・ローマ文化が衰亡するとともに、人気を失っていったのです。この愚かで、不毛の努力は、現代社会の特徴でもあります。

現代人は、イエスを現代に合うように作り替えています。イエスは、現代の文化水準やイコンに合うように描き直されています。そのため、カルポクラテスの時代から現代に至るまで、こういった類の像はすべて、愚民に仕える偽イエスでしかなかったのです。

今日、筆者がよく耳にするのは、聖書的信仰を現代人の好みに合うように「修正」したというニュースです。カルポクラテス主義者は、私たちの回りにうようよいます。そして、「自分こそ、歴史的イエスの実像を明らかにした者である」と信じ切っているのです。その知恵は彼らと共に生まれ、彼らと共に確実に死ぬ運命にあるのです。

世界や歴史は、人間の希望や信念に合わせて絶えず作り替えられてきました。驚くなかれ、科学的に証明されたもの以外信じないと公言している多くの人々が、「他の惑星に生命が存在するはずであり、また、存在しなければならない。」と信じているのです。なぜでしょうか。それは、その説を信じる「理由」が宗教的だからです。その主張は、奥底のところで、聖書的信仰と対立しているのです。

「現代の学問は、真理のパラダイムに到達した。われわれは、宗教と神話を超越し、最終的なパラダイムに行き着いた。」という考えも、現代人が心の奥底において密かに信じている信仰なのです。カルポクラテスの息子エピファネス(17才で死去)は、正義について一冊の本を著しましたが、その中で、正義とは平等を意味し、社会は、持ち物や女性までも互いに分け合って平等に暮らさなければならない、と述べています。(筆者は、この考えが、5世紀に起こったゾロアスター教徒による非常に邪悪な共産運動に大きな影響を与えたのではないかと考えています。)

死後、エピファネスは、一部の人々から崇拝されるようになりました。平等は正義であるという彼の思想は、現代においても流行しており、その勢いはかつてなく強まっています。平等は正義ではありません。これまで、平等が正義であったことは一度もありません。平等は、善悪を含めあらゆるものを均等化するために、正義を否定するようになるのです。2世紀の初めの頃から現代に至るまで、われわれは、あまり進歩していないのです。われわれの回りには、最も傲慢で、最も破壊的なカルポクラテス主義者たちが跋扈しています。カルポクラテス主義者に対する解答は、神のすべての御言葉に堅く立ち、その内に記されたキリストへの信仰をしっかりと保つこと以外にはありません。

心を尽くし、思いを尽くし、全存在を通して三位一体の神にお仕えするのではなく、ただ天国行きの切符を手に入れることしか求めない人々は、現代のカルポクラテス主義者と対抗することはできません。神が私たちのために働くことを期待するのではなく、私たちが神のために働く時にはじめて、私たちはキリストと御国のために役立つ有能な働き人となることができるのです。カルポクラテス主義者は私たちの回りにいます。彼らは、自らが好むと好まざるとに関わらず、キリストと御国の敵なのです(マタイ6・33)。


The Carpocratians , Chalcedon Report (No. 384, July 1997), pp. 32-33.
This article was translated by the permission of Chalcedon.





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