プロローグ

 

偶然と奇跡を峻別することは難しい。

 幾つかの偶然が積み重なった時点でそれは奇跡と呼ばれる現象へと移行するのであろうが、偶然が奇跡に転じた時、歴史学は学問の世界から消滅する。

 それを承知の上で、あえて奇跡と呼びたくなる様な今回の旅を、なるべく現実から逸れぬよう留意しつつメモしておく事にしよう。

 

 この旅の主役は溝江春子さん(七○才)とそのご子息川口常仁氏、私はガイド役を務めた。

 ちなみに、川口氏は私の仕事上の相棒、数少ない友人の一人でもある。氏の母上は御主人を亡くされたのち、旧姓の溝江にもどられた。

 

 私事にわたる事はなるべく避けたいが、それを抜きにして物語を綴る事は出来ない。溝江春子さんが北海道の姉上大橋うめさん(八五才)にあてられた手紙、折りに触れての三人の会話、それに私の独白を狂言回しとしてまじえながら、このレポートをまとめることにしよう。

 

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