キリスト教再建主義

影響力を増しつつある神政統治主義

フレデリック・クラークソン

 

第1部

概要と起原

 キリスト教右派は、1980年代の後半に起こったテレビ伝道師のスキャンダルや、ジェリー・フォーウェルのモラル・マジョリティの崩壊、パット・ロバートソンの大統領選の敗退から見事に立ち直り、1990年代、草の根運動に転じることによって、アメリカ全国にわたって広範な政治的影響力を持つようになった。

 

 このような地方レベルでの成功は、もちろん、パット・ロバートソンのキリスト教連合の尽力によるところが大なのであるが、しばしば見逃されているのは、1960年代以降、キリスト教右派が経験してきた神学的立場の変化である。このような変化において触媒の役割を果たしたのは、キリスト教再建主義である。キリスト教再建主義は、1990年代のキリスト教右派を導いた主要な神学なのだ。

 

 キリスト教再建運動の重要性は、その支持者の数にあるのではなく、思想そのものが持つパワーと、驚異的なスピードで広がる影響力である。キリスト教右派の多くの人々は、自分が再建主義の神学に立っているという自覚がない。再建主義の神学は、福音主義者の間でも論議を呼ぶものであるため、その影響を受けていると自覚する人々の間でも、再建主義者のレッテルを貼られることを嫌がる人は多い。しかし、再建主義者であると公言する人々が少ないからといって、思想としての再建主義の影響力を小さく見積もることはできない。…

 

 一般に、多くの再建主義者の政治的な立場は保守的であると受け取られているが、重要なのは、再建主義者が包括的なプログラムを作り上げ、一番右よりの政治的見解に聖書からお墨付きを与えたということにある。第二次大戦後の保守主義や反共産主義の活動家の多くも、保守的クリスチャンであった。しかし、彼らにとって、クリスチャンであるということは、二義的な意味しかなかった。だが、再建主義運動は、保守主義者はまずクリスチャンにならねばならず、そこから、教会を基盤とする政治運動を作り上げねばならないという。…

 

第2部

再建主義者世代

再建主義の重要性

 再建主義の指導者たちは、教会(及び世界)の歴史において極めて重要な役割を演じていると考えており、自らを、自由主義神学からだけではなく、現代の根本主義からの救出者でもあるとしている。彼らは、保守運動の活動家であると同時に、保守的クリスチャンであり、ピューリタンたちの働きを継承しようとしている人々である。彼らが、新保守主義の理論に方向性と土台を提供する神学の構築に努めてきたのはこのためなのだ。この神学は、彼らのもとに来る人々をすべて仲間として取り込むように仕組まれた恐るべき神学でもある。社会のあらゆる側面に神の支配を確立する戦いを行うために、彼らは包括的な分析・戦略・弁明を必要としていた。これらこそ、再建主義が、実に様々な福音主義者や他の保守主義者志願のクリスチャンたちに供給してきたものなのだ。新右派活動家ハワード・フィリップスは、ラッシュドゥーニーやノースが唱導する再建主義は、「 [福音的クリスチャンの]リーダーたちに理論面で自信を与え」、以前はノンポリであった彼らを政治活動家に変えてきたと述べている。それまで、多くの保守主義者たちは、「自分たちには明確なプログラムがなく、単にモダニズムやリベラリズムにノーと言うだけの反動主義者の役割しか残されていない」という諦めの気持ちを持っていたように思われる。再建主義は、宗教と政治を包含する綱領を提供している。

 

 キリスト教右派に属する多くの理論家たちは、再建主義に大きな影響を受けてきた。特に影響を受けた人々として、故フランシス・シェーファー(著書『クリスチャン宣言』は200万部を売り上げ、多くの福音主義者を政治活動に駆り立てることに成功した)とジョン・ホワイトヘッド(キリスト教右派の法律活動グループ『ラザフォード研究所』所長)を挙げることができる。

 

 フランシス・シェーファーは、プロテスタント福音主義者の中絶反対運動に大きな影響を与えた。例えば、オペレーション・レスキューの創設者ランドール・テリーは、「オペレーション・レスキューについて知りたいなら、フランシス・シェーファーの『クリスチャン宣言』を読むことをお勧めする」と述べている。カール・マッキンタイア師の分教派、聖書長老教会で長い間リーダーを務めていたシェーファーは、再建主義の書物の読者であったが、その影響を公に認めようとはしなかった。実際、シェーファーと彼の追従者たちは、旧約律法の現代への適用にはきっぱりと反対の立場を取っていた。

 

 ラザフォード研究所のジョン・ホワイトヘッドは、シェーファーとラッシュドゥーニーに学び、思想的影響を与えた二人の主要な人物として両者の名を挙げている。ラザフォード研究所は、法律に関する保守的な主張グループであり、大きな影響力を行使し、かなりの人々から正統的との評価を受けている。正統的との評価を落としたくないがために、驚くなかれ、ホワイトヘッドは、自らを再建主義者であることを徹底して否定しているのであるが、言いすぎの感は否めない。ラッシュドゥーニーは、再建主義の集会において、ホワイトヘッドのことを、「神に選ばれた」人と呼び、「ジョン・ホワイトヘッドを通じて、非常に重要な働きが進行しつつある」と述べた。さらに、ラッシュドゥーニーは、「ラザフォードを通じて、我々の計画――すなわち、国家主義者との戦い、キリストの御国の自由のための戦い――[が進行している]」と述べた。ラザフォード研究所は、R・J・ラッシュドゥーニーのカルケドン財団の法律プロジェクトとして創設されたのであり、ラッシュドゥーニーとカルケドン理事ハワード・アーマンソンは当初理事会の理事を務めていた。ホワイトヘッドは、ラッシュドゥーニーの蔵書を利用して書き上げた最初の著書のアウトラインを描いたのは、ラッシュドゥーニーであると述べている。

 

 自ら認めるか認めないかは別として、キリスト教右派は再建主義から多大な影響を受けてきた。キリスト教右派内部において最も重要な役割を演じたのは、1982年のリバイバル同盟の設立であろう。リバイバル同盟は、様々な保守的福音主義のリーダーたちが互いに神学的な立場を譲り合うことによって成立した包括的な組織である。これらの譲歩に方向性を与えたのが、再建主義であった。そのため、再建主義は彼らの間で影響力を増していった。

 

 ジェイ・グリムステッド博士が設立し、彼がリーダーを務めていたリバイバル同盟は、教派を越えた神学を作ろうと模索してきた。何百人もの福音主義の学者や牧師、活動家がその作成に参加し、彼らの神学に関する発言は『キリスト教会宣言』にまとめられている。意義深いことに、リバイバル同盟のリーダーたちは、同時にキリスト教右派のリーダーでもあった。その一部を挙げると、ジョン・ホワイトヘッド、アメリカ家族協会のドン・ワイルドモン、テレビ伝道者ティム・ラヘイ、D・ジェームズ・ケネディ、オペレーション・レスキューのランドール・テリー、ヒューストン共和党活動家スティーヴン・ホッツェ、カリフォルニア州サクラメントのグレン・コール師、1993年バージニア州共和党副知事候補マイケル・ハリス、米国福音主義者協会ロビーストロバート・デュガン、前合衆国下院議員ビル・ダンネメイヤー、マーク・シリャンダーである。もちろん、再建主義のリーダーたち――R・J・ラッシュドゥーニー、ゲイリー・ノース、ジョセフ・モアクラフト、デイビッド・チルトン、アメリカン・ヴィジョンのゲイリー・デマー、プリマス・ロック財団のラス・ウォルトン――もその中に含まれるのは言うまでもない。

 

 リバイバル同盟の主な焦点は、二つの主要な福音主義の終末論を調和させることに当てられていた。

 

 20世紀のほとんどの福音主義者たちは前千年王国論者であり、イエスが再臨し、その後千年間イエスとクリスチャンが世を支配するまで、この世を改革することは不可能であると考えている。前千年王国説が彼岸志向であるため、大多数の福音主義者は、政治に関して常に部外者の立場に留まる傾向が強かった。

 

 少数派の福音主義者は、後千年王国論者である。すなわち、イエスの再臨の前に、この地上において神の国を作る必要があると考える。このため、後千年王国論者にとって、イエスが再臨されるのは、この世界が完全にキリスト教化された後であり、千年間のクリスチャンの支配が絶頂に達したときに再臨が実現する。この終末論は、福音主義者たちを政治参加に駆り立て、彼らを活動家に変える。キリスト教の支配を確立する上で彼らは極めて重要な役割を演じなければならない。

 

 リバイバル同盟は、「終末論については一切論争しない」こと、及び、「イエスの再臨まで可能な限り神の国建設に努める」という方針を取り決めた。これにより、どのくらい実現できるかという問題に触れなくても、だれもが政治活動に関わることができるようになった。福音主義者を二分する終末論のギャップを埋めることによって、政治的関与と活動への道が開けたのであり、互いに相手の立場を捨てさせるように求める必要もなくなった。

 

 リバイバル同盟は再建主義を公言する組織ではなかったが、リバイバル同盟の教義の多くは明らかに再建主義的である。とりわけ、リバイバル同盟は、十七の生活「領域」――政府、教育、経済など――においてキリスト教の支配を確立すべきであると表明した。同盟の中における再建主義の役割について論争になった際に、リバイバル同盟の主事ジェイ・グリムステッドは死物狂いになって再建主義を弁護したが、同盟のメンバーへの手紙の中では、実に巧妙な説明を試みている。

 

 「リバイバル同盟の目標、リーダーシップ、文書は、キリスト教再建主義のそれとあまりにもオーバーラップする部分が多いので、我々の敵から見れば、我々は一枚岩の再建主義運動であるように見える。我々が、互いの違いをどんなにうまく説明したとしても、キリストの敵にとっては何の意味もない。彼らにとっては、社会を聖書の原則に則って再建しようとする者はだれでも再建主義者なのだ。だから、我々は再建主義者のラベルと共存すべきであり、ゲイリー・ノースやR・J・ラッシュドゥーニーのような素晴らしい学者の仲間になれることに感謝しなければならない。」

 

 グリムステッドは、キリスト教右派にとっていかに再建主義が重要な存在であるか認めざるをえなかった。「彼らは、私たちのほとんどがまだ眠りからさめやらぬうちに、10年から20年にもわたって、世界に対する教会の使命や、キリスト教の世界観を生活のあらゆる領域に適用する方法について思索をしていた人々なのだ。私たちは、たとえ彼らの主張に受け入れられない部分があったとしても、聖書に基づく世界変革のパイオニアとして彼らに感謝しなければならない。」

 

 グリムステッドの粉飾の努力にもかかわらず、再建主義との関係を巡る議論が沸騰する中で多くのリバイバル同盟運営委員会のメンバーが脱落していった。しかし、ある福音主義批評家は、次のように述べている。「リバイバル同盟の文書つまり『契約』に署名した人々は、『聖書律法に基づく政府を作るために死ぬ覚悟をしなければ』ならなかった。この宣言により、リバイバル同盟宣言契約は、単なる契約以上のものになる。つまり、それは、署名者の命をかけた血の契約なのだ。」と。

 

 多くの福音主義者を結びつけている主要な教理は、「支配命令」である。これは、「文化命令」とも呼ばれる。この概念は、創世記において、神が地を「従え」、その上に「支配」を確立せよとの命令を下した記事に由来している。ある人が述べたように、再建主義は、「幾多の細かな教理を捨てる」ことになるにしても、支配命令への取り組みという神学的原理によって、キリスト教右派急進主義の結束を固めることができる。

 

 キリスト教再建主義は、宗教右派全体にじわじわと影響を及ぼしつつある忍びの神学である。それは、アメリカをクリスチャンの国であると述べ、その支配の概念を通じて[世界を]完全に支配することができると保証する。そのため、当然のことながら、多くのアメリカの保守的クリスチャンがその教えに惹きつけられている。聖書律法による支配という黙示録的なヴィジョンを見せられたクリスチャンたちは政治活動へと駆り立てられている。リバイバル同盟やラザフォード研究所などの組織は、人々に政治的な指針を与え、彼らの政治的野望を拡大させるツールとして機能している。

 

 

第3部

羊のない群れからの脱却

 1990年代にその政治的な重要性が明らかになるまで、再建主義が(福音主義者以外の)人々の耳目を引くことは稀であった。リバイバル同盟が再建主義の教義の議論・宣伝・受容において、触媒(と保護者)の役割を果たすようになると、それはアメリカのプロテスタンティズムの間に広く知れ渡るようになった。しかし、再建主義(時にドミニオン主義と呼ばれる)が最もめざましい影響を与えたのは、他でもないペンテコステ派、カリスマ派においてであった。

 

 「霊の賜物」による異言や癒しや預言の実践で知られるペンテコステ派で有名なのは、テレビ伝道者のジミー・スワガートやオーラル・ロバーツなどである。カリスマ派で有名なのは、パット・ロバートソンと最高裁判事クレアレンス・トーマスである。ペンテコステ派は歴史的に政治についてはノンポリの立場を取り続けてきたが、1980年以来、ペンテコステ派の人々の多くは、再建主義(ドミニオン神学)を取り入れ始めた。これは、けっして偶然の出来事ではなかった。再建主義者は、その教義を、ペンテコステやカリスマ派の教義(体験を重視し、神学的にあいまいな部分が多い)の中に移植しようと努めてきた。1987年の再建主義・ペンテコステ派合同神学会議の後で、ジョセフ・モアクラフトは次のように叫んだ。「神は、長老派の神学とカリスマ派の熱心を融合して下さった。この勢いを止めることのできる者はだれもいないだろう」と。

 

 ゲイリー・ノースは、「再建主義の考えは、プロテスタントの世界の隅々にまで行き渡っている。しかし、大部分の人々は、自分たちを変えようとしているこの考えが一体どこから来ているのか知らない。」と述べている。ノースによれば、「再建主義の三本柱」とは、「長老主義志向の教育者、バプテスト派の校長と牧師、カリスマ派のテレコミュニケーションシステム」である。

 

 つまり、根本主義者のバプテストたちだけではなく、何十万ものペンテコステ派やカリスマ派のクリスチャンたちも、今やノンポリの立場を捨てて、政治的活動家になったということなのだ。彼らは、もはやただの選挙民ではなく、思想につき動かされた政治活動家になったのであり、それぞれの持ち場において再建主義が教える「聖書の世界観」を実践しようとしている。

 

 恐らく、この再建主義による貢献は、永続的なものになるだろう。フランシス・シェーファーの著書から生まれた反中絶運動を実践するオペレーション・レスキューにしても、政治活動への積極的な参加への呼びかけに呼応し、パット・ロバートソンの大統領選出馬(1970−1980年代)に関わったペンテコステ派にしても、ペンテコステ主義の政治化は、現代アメリカ政治史を構成する主要な出来事の一つとなった。

 

 事実、ロバートソンは、この動きの中で中心的な役割を演じてきた。著書やテレビプログラム、リージェント大学、1988年の大統領選挙活動、自前の政治組織――まず1980年代の『自由会議』、続いて『キリスト教同盟』――を通じて、彼は、ペンテコステ派やカリスマ派のクリスチャンたちを政治活動に動員してきた。

 

 ゲイリー・ノースや他の再建主義者は、公立学校から民主主義自体に至るまで、現在危機に見まわれている既存の諸制度に対する活動家たちの対応の中に、再建主義の影響のチャンスを見て取っている。この「反中央集権的な」活動は、必ずしも独立的である必要はないし、「草の根運動」的である必要もない。ノースは、局地的な政治闘争は「抵抗運動の基本」であるが、「中央において案出される統一的な戦略と、局地的な戦闘をうまく調和させることが何よりも大切なのである」としている。これこそ、現在キリスト教右派が採用している作戦の方法なのだ。「ラザフォード研究所」や「アメリカ法正義センター」が起こした数々の訴訟から、学校理事会の極秘裏の乗っ取りに至るまで、目的は、社会の通常の活動を覆し、神政的福音主義を発展させることにある。

 

 ノースによれば、クリスチャン放送ネットワーク(CBN)テレビサテライトは、テレビ伝道者の政治力を端的に示しているという。CBNは地方の闘争を、全国の視聴者に拡大して伝えることができるからである。「危機を広く伝える手段がなければ、立場を鮮明にする牧師はほとんどいないだろう。」 CBNテレビは、地方における反中絶、反ポルノ、クリスチャンスクールの立地制限反対など、「局地的な闘争」のインパクトを増幅して伝える重要なツールである。

 

再建主義とキリスト教右派

 

 現在のキリスト教右派の形成において、再建主義は非常に重要な役割を果たした。これは、キリスト教右派のリーダーの中でリバイバル同盟に関わっている人の数を見ても明らかである。再建主義の影響は、キリスト教右派のもう一つの中心――パット・ロバートソンの多面的組織――においても明らかに見て取れる。ロバートソンの組織は、口では再建主義の影響を否定しつつも、実際にはまさにゲイリー・ノースが言っているとおりのことを行っている。例えば、ロバートソンのキリスト教右派において、政治活動プランは地方分散志向であり、指導や援助は高度に中央集権的なメディアや教育・政治組織に頼っている。

 

 キリスト教右派は、ロバートソンのメイリング・リストと1988年の大統領選の選挙活動から生まれ、宗教右派の中で最大かつ最重要な団体に成長した。その戦略は、「ボトムアップ方式」である。すなわち、まず地方の選挙戦に集中し、その後徐々に中央に向って共和党ポストの占有を進める作戦なのだ。…

 

 ロバートソン自身は、再建主義者の長期的なヴィジョンを共有していないようだが、短期的な戦闘的「支配」命令には従っているようだ。すなわち、彼もアメリカの社会的・政治的制度の「キリスト教化」を目指している。彼は、近い将来に、サタンと、力と力のぶつかり合い、恐らく物理的な衝突に至るかもしれない「霊的戦争」があると予想している。「世界は我々のものになろうとしている。」と、以前彼は告白した。「しかし、戦いを避けることはできない。血を流すことなく世界を手に入れることはできない。」 1994年のキリスト教右派戦略会議の席上で、ロバートソンは「サタンの諸力」に向って罵りの言葉を吐いた後で次のように宣言した。「我々が直面している敵は、単なる人間ではない。選挙に勝って彼らを打ち負かすことが真の目的なのではない。我々は今、霊的な戦いを経験している。誰と戦っているかを理解しなければ、我々は負ける。」 統治主義は、もはやキリスト教再建主義に立つ急進主義者たちの排他的革命思想の専売特許ではない。それは、事実上、キリスト教根本主義に属する多数の陣営の上に覇権を確立した。歴史家ゲアリー・ウィルスは、統治主義の教理は、「徹底・首尾一貫した統治主義者である、ルーサス・ジョン・ラッシュドゥーニーの追従者たち、すなわち、キリスト教再建主義者と呼ばれる人々」の中に見られるだけではなく、パット・ロバートソンの著書『秘密の王国』の中にも明確に現れている思想なのだ。

 

 ロバートソンはその数々の著書の中で、単に統治主義を唱えるだけではなく、旧約聖書律法を政治に適用すべきであるとも述べている。『新世界秩序』の中で、ロバートソンは、「信仰的な男女がヤコブの神の律法に従って運営するのでない限り、政府がまともに機能することはあり得ないのである」と語っている。ロバートソンが自らの立場を公的に認めないことに業を煮やした再建主義の著者ゲイリー・デマーは、彼のことを「活動的再建主義者」と呼んだ。再建主義の影響は、ロバートソンのリージェント大学にも現われている。例えば、長い間ロースクールの学部長を務めているハーブ・タイタス(彼自身は再建主義ではない)は、彼の法律入門課程でラッシュドゥーニーの著書を用いて授業を行った。再建主義者ジョセフ・キッカソラが教壇に立つ公共政策校では、数年に渡ってノースとラッシュドゥーニーのテキストが使用されている。図書館には、大量の再建主義の著作やテープが収められている。

 

 リージェント大学の理事長ディー・ジェプソンは、長い間リバイバル同盟の運営委員会の委員を務めている。彼女は、大学の名前を「クリスチャン放送ネットワーク大学」から「リージェント大学」に変更するように働きかけた人の一人である。「リージェント[訳注:”摂政”の意]」のほうが、大学の使命をよく反映しているという。ロバートソンによれば、「リージェント」は、主権者が不在の際に代理で統治する者のことを言い、リージェント大学は、イエスが再臨されるまでの間、この不在の主権者に代わって統治する人々を養成することを目的としている。リージェント大学は「地上を支配する神の代理者」を整えるための「御国の機関」であると、ロバートソンは語っている。

 

 ディー・ジェプソンは、リバイバル同盟運営委員会のメンバーであるだけではなく、ラッシュドゥーニーのカルケドンのために献金要請の手紙に署名した前上院議員ロジャー・ジェプソン(アイオワ州)の夫人でもある。

 

陰謀論

 

 キリスト教右派に対して再建主義が与えた影響の一つの側面は、その陰謀論である。ゲイリー・ノースは、「この世界には一つの陰謀しかない。それはサタンの陰謀である。サタンの陰謀は最終的に破局に終わる以外にはない。サタンの超自然的な陰謀だけが真の陰謀と呼べるものなのだ。他のすべての可視的陰謀は、単にこの超自然的な陰謀の現象に過ぎない。」と述べている。パット・ロバートソンは、その著書『新世界秩序』において同じようなことを記している。ロバートソンのキリスト教同盟に新しく加わったメンバーたちは全員彼の意見を受け入れている。

 

 R・J・ラッシュドゥーニーは、「歴史を陰謀の歴史として見る見方は、正統的キリスト教の基本的な歴史観である」と語っている。陰謀史観は、合衆国のキリスト教右派が唱えている首尾一貫した理念である。陰謀こそ、保守的キリスト教各派による千年王国建設計画の頓挫の原因であり、政治権力の獲得及びその維持を阻んでいる真の障害であると言われることが多い。この陰謀の主役としてしばしば非難の的にされているのは、フリーメイソン――とくに、イルミナティと呼ばれる18世紀のメイソンの一派――とサタンである。

 

 18世紀と19世紀において国教会(及び国教会になることによって得られる政治権力)が否定され、パニックに陥った組合派の教職者たちは、陰謀論を振りかざし、メイソンに対して憎悪の炎を煽り立てた。パット・ロバートソンは、メイソンの陰謀は、キリスト教を破壊し、キリスト教の支配を挫折させようとやっきになっている、と述べた。『新世界秩序』の全体にわたって、ロバートソンは、ニューエイジ運動と並んでフリーメイソンをサタンの陰謀と呼んでいる。このような見解にこだわると、現実理解はひどく歪んだものにならざるを得ない。それは、ロバートソンが、前大統領ウッドロー・ウィルソンやジミー・カーター、ジョージ・ブッシュは、国連のような国際的国家集団を支持したことにより、無意識のうちにサタンの手先となっていたと述べたことから明らかなのだ。

 

 キリスト教右派陰謀論のもう一つの例は、キリスト教同盟とリバイバル同盟のメンバーでありカリフォルニア州の活動家であるスタンレー・モンティス博士の著作である。博士は、キリスト教右派の反ゲイ運動において主要なスポークスマンの役割を果たしている。その著書『エイズ――不必要な伝染病:アメリカは包囲されている』において、モンティスは次のように述べている。すなわち、エイズは、ゲイやヒューマニストや、「我々の社会を破壊しようとしている不吉な黒幕たち」による陰謀の結果である、と。

 

 モンティスの著書の発行者は、自称再建主義者ダルマー・D・デニス(彼はジョン・バーチ協会の全国評議会委員でもある)である。モンティスの活動は、その主張の意味を雄弁に説明している。中絶反対運動組織『ヒューマンライフ・インターナショナル』の会議の席上で、モンティス博士は、メイソンの陰謀を暴露するとのふれこみがついた様々な文献を紹介しただけではなく、自分は反ユダヤ主義者ではないとことわりつつ、露骨な反ユダヤ主義の文献リストを紹介した。

 

モアクラフトの怒り

 

 キリスト教右派が権力の座についた時に、実際にどんなことが起こるのかは、まだ誰にも予測がつかない。しかし、神政政治を目指す人々が地方でどのようなことを行っているか実例を見ることは判断の材料になるかもしれない。ジョージア州コッブ郡の委員会は、キリスト教右派によって運営されているが、そこでは同性愛が禁じられ、芸術への助成金は削減され、中絶クリニックと、従業員健康プランが廃止された。コッブ郡委員会の活動は、1993年に全国版のニュースとして報道された。ジョセフ・モアクラフト師が牧会する非常にエネルギッシュで政治的に活発な教会「カルケドン長老教会」のメンバーの大多数は、コッブ郡庁所在地であるジョージア州マリエッタの住民である。師は、この政策について再建主義の見解をはっきりと表明している。政治の分野で聖書律法が重視されつつある傾向について、彼はコッブ郡の例を引き合いに出してこのように述べた。「わたしが住んでいる郡では、…同性愛を禁じる法律が可決された。というのも、同性愛は我々の地域社会の基準に合わないからだ。」 さらにこう続けた。「その翌週には、不道徳なポルノ的な芸術に郡の税金を使うべきか投票が行われたが、その際に、当局は、次のような声明を発表した。『我々は、ポルノ的な芸術に税金を遣うつもりはない。ポルノ的な芸術だけではなく、あらゆる芸術に税金を遣うつもりもない。なぜならば、それは政治が関わるべき仕事ではないからである』と。」 そして最後に「さらに、先週、コッブ郡当局は、中絶に税金を支出することに反対する決定を下した。」と述べた。

 

 このような決定であっても、モアクラフトが持っている生命や政治に関する見解と比べればまだまだ子供だましなのだ。その著書や会議――特に1993年に開かれた「聖書的世界観とクリスチャン教育会議」――において、彼は国家の警察権力について説明している。彼の言説から、非クリスチャンや、正統的な信仰を持たない者への迫害の意図は明らかである。モアクラフトは、民主主義を「暴徒の支配」と呼び、「政府」の使命は「悪人を恐れさせ、悪に対して報復し、悪を行うすべての人に神の御怒りを下すことにある」と声高に述べている。

 

 「悪人を恐れさせる方法とは何か?」と彼は尋ねる。「それは、聖書律法を適用することである。」 政府の使命とは、「イエス・キリストの教会を守り、この地球上でエホバ以外のいかなる神も拝ませないことにある。[訳注:他の再建主義者と同様に、ラッシュドゥーニーは「人々に鞭を振るって礼拝させることはできない」と述べ、このような宗教の強制や異教の禁止は聖書的ではないとしている。]それゆえ、政府には、偶像を礼拝する者を守る責任はない。」 彼は、宗教的多元主義「のようなものはこの世には存在しない。」と断言する。さらに、「人類の歴史において宗教的多元主義が存在したためしはないし、現在も存在しないし、これからも存在しない。」と述べた。…

 

 恐らく、再建主義運動が獲得した最も重要な成果は、アメリカの政治において思想的な基準(及び、それに付随する政治的戦略)を設定したことであろう。キリスト教右派はこの基準に従って自らの立ち位置を測り続けている。この基準に同意する者もいれば、拒絶する者もいる。1990年代の初期には、ほとんどの福音主義者たちは、再建主義のことを、支持者のいない神学的な異分子とみなしていた。しかし、キリスト教右派の数的及び性格的変化に伴なって、すべてが変わった。福音主義の世界、そして、(議論の余地はあるだろうが)アメリカの政治世界が変化しないという保証はどこにもない。

 

 すでにかなりの権力と影響力を備えるようになった再建主義者として、R・J・ラッシュドゥーニーのカルケドン財団の二人の理事の名前を挙げることができる。すなわち、慈善家ハワード・アーマンソンと政治コンサルタントウェイン・C・ジョンソンである。彼らは、新キリスト教右派の政治戦略を要約して述べている。

 

 莫大な遺産の相続者ハワード・アーマンソンは、カリフォルニア州の重要な権力者である。彼は次のように語った。「わたしの目的は、聖書律法を我々の生活に徹底して適用することである」と。 彼は、フィールドステッド・カンパニーという非法人組織を通じて、キリスト教右派のグループやその政治運動に資金援助している。例えば、彼の名前は、ポール・ウェイリッチの自由議会財団の主要支援者リストに記載されている。フィールドステッド社は、クロスウェイ・ブックスと共に、『ターニング・ポイント:キリスト教世界観シリーズ』という再建主義の一連の著作を出版した。これは、一般のクリスチャン書店で手に入れることができる。

 

 アーマンソンと彼の妻は、1993年のカリフォルニア州スクール・バウチャー・イニシアチブや、1992年のコロラド州バウチャー・イニシアチブの支援はもとより、カリフォルニア州選挙候補者の支援のために数十万ドルを遣った。 彼は、コンテナ供給会社のロブ・ハートなど、保守的なビジネスマンと協力して、数々の政治活動委員会を組織してきた。カリフォルニア州上院議員に立候補した19人の右派政治家や、様々な保守主義運動に対して行われた、これらの政治活動委員会からの直接の献金やアーマンソンやハートからの個人的な献金は、このグループから実質的な支援を受けている他の政治活動委員会の献金と合わせて、約300万ドルに達した。キリスト教右派が支援した12人の候補者はこの選挙戦に勝利した。カリフォルニア州共和党郡委員会を組織的に支配することによって権力を勝ち取ったキリスト教右派の多くの人々と並んで、アーマンソン自身も共和党州中央委員会のメンバーである。

 カリフォルニア州1990年期間限定イニシアチブを作った政治活動家ウェイン・ジョンソンは、1992年アーマンソンが支援した数人の候補者の選挙運動をリードした。期間限定イニシアチブの活動が及ぼした実際的な効果とは、(共和党と民主党両党の)現職に伴なう有利――これは、急進的キリスト教右派の人々も利用しようとしているものである――を取り除いたということにあった。それは、よく訓練された選挙区を創出し、候補者への金銭的な支援のための資源を確保したことによって実現した。

 1983年の再建主義者会議において、ジョンソンは、今日カリフォルニア州において実施されている戦略の概要を紹介した。ジョンソンによれば、カリフォルニア州議会選挙において勝利するために最も必要なのは、現職有利の原則である。現職は35対1の割合で勝利するからである。当時の議会は共和党が多数派を構成していた(民主党は保守派の人々から敬遠されていた)。キリスト教右派にとって最も重要なのは、(1)現職有利の状況を完全に封殺するか弱めることであり、(2)民主党予備選挙に候補者を出馬させ、当選させるために選挙区をよく整えることである。民主党予備選挙にターゲットを絞るのは、投票率が低く、選挙資金が少なくても最大の効果が狙えるからである。1990年代初期から、キリスト教右派の人々は、この二つにおいて成功を収めてきた。アーマンソン、ハートらの尽力によって、現在キリスト教右派は、選挙戦において十分に戦えるだけの資金力を得ている。1970年代中頃から、急進的キリスト教右派は、当時の上院議員H・L・リチャードソンの指導の下に、空き議席の確保を目指し、現職を排除し、挑戦者にのみ金銭的な支援を与えていた。ジョンソンが「めっちゃいい奴」と呼ぶ人々が多数議会に送り込まれた結果、1983年までに、議席数は四つから27に伸びた。1983年の第3回ノースウェスト再建主義年次大会において、ジョンソンは、「今世代のうちに我々は…政治的覇権を」獲得できるかもしれないと述べた。1994年に、キリスト教右派はこの目標からそう遠くはない結果を得ている。ロブ・ハートは、1993年の州議会選挙において議席を獲得した。1994年州議会議員ハートは州議会の民主党選挙委員会の議長をも務めた。これは、新米の州議員にとっては重要な助っ人である。1994年には、保守派クリスチャンが主導する共和党は、多数派となるのにたったの4議席足りない数の議席を確保した。

 

ゲイリー・ノースの子供たち

 

 しかし、ほとんどの再建主義者は、自分たちが未来を左右できるのは、次世代からであると考えている。ゲイリー・ノースは、「長期的な社会変革を実現させるには、広く大衆の支持を獲得するだけではなく、様々な組織が将来のリーダーたちの心をがっちりとつかむ努力をしなければならない」と述べている。この鍵となるのは、クリスチャンスクール運動とホームスクーリング運動であるという。これらはどちらも再建主義の影響を強く受けている。

 驚くなかれ、再建主義は公立学校制度の廃止を狙っている。公立学校制度は、世俗的世界観の宣伝に大きな役割を果たしていると見ているからである。彼らが真っ向から対決しているのは、この世俗的世界観なのだ。ゲイリー・ノースは次のように述べている。「圧倒的大多数のクリスチャンが自分の子供たちを公立学校から引き離すということがないうちは、神政的共和政体を作り出すことはできない。」と。

 再建主義の教育政策において主導的な役割を果たしている人物の一人に、バージニア州フェアファックスにあるフェアファックス・クリスチャンスクールの経営者ロバート・ソバーンがいる。ソバーンは、クリスチャンは一方で自分の子供を公立学校から引き離しながら、他方で学校の理事会のメンバーになる努力をしなければならないと言う。「我々の目標は、船を沈めることである。」と彼は言う。学校理事会のメンバーに立候補する保守的クリスチャンの必ずしも全員がこの目標を持っているわけではないが、実際にこれを目指している人々は、自分の計画を胸の内に秘めておくべきである、と彼は助言している。ソバーンの著書『子供を狙う罠』は、公的教育を攻撃するキリスト教右派の多くの人々にとってバイブルとなっている。

 ジョセフ・モアクラフト(彼も学校を経営している)は、1987年に次のように述べた。「アメリカのクリスチャンスクールに通う子供たちは、未来を獲得する軍隊である。現在、…キリスト教再建主義運動は、少数の説教家、教師、著述家、学者、出版社、雑誌編集者によって進められており、急速な成長を遂げつつある。しかし、この運動が加速するのは、現在クリスチャンスクールに通う子供たちが卒業してアメリカ社会において社会的地位を獲得し、影響力や権力を持つようになる25年から30年後のことであろう。」

 同様に、クリスチャン「ホームスクーリング」運動も、再建主義の長期的革新戦略を担う一員である。ホームスクーリングの主要なカリキュラムの一つを提供しているのは、イリノイ州アーリントン・ハイツにあるクリスチャン・リバティー・アカデミーの経営者であり再建主義者のポール・リンドストロームである。クリスチャン・リバティー・アカデミーによれば、約2万世帯の家庭が彼らのカリキュラムに基づいて教育を行っているという。1994年のカリキュラムでは、ゲイリー・ノースの「聖書的経済学」に関する著書がテキストとして用いられている。ホームスクーリング運動提唱者クリストファー・クリッカは、R・J・ラッシュドゥーニーから深い影響を受けた人物であるが、次のように述べた。「子供を公立学校に送るならば、ほとんどすべての聖書の原則を犯すことになる。…それは、我々の子供たちを敵によって教育してもらうということとほとんど同じことなのだ。」 彼は、公立学校はサタンの選びの器である、と言う。クリッカは、宗教的分離主義を提唱している。すなわち、彼は、クリスチャンに対して、ノンクリスチャンのホームスクーラーと絶対に関係しないよう勧めている。 「わたしが今述べている[クリスチャンとノンクリスチャンとの]相違点は、そう遠くない過去において、様々な争いや殉教すらももたらしたからである。」とクリッカは言う。ホームスクーリング法的援護協会の弁護士であるクリッカによれば、我々は、組織として、また個人として、キリストの御言葉と御国の前進のために身を挺して働かねばならない。

 ホームスクーリングを行う家庭の推定数は、調査の方法によって大きく変化するが、控えめに言っても、10万世帯以上はあるだろう。クリッカは、ホームスクーラーの85から90%は、「宗教的な信念に基づいて」ホームスクーリングを行っていると言う。彼はこのように結論している。すなわち、「事実上、これらの世帯は、家において宗教学校を運営しているのである」と。クリスチャンホームスクーリングは、もはや少数派の運動ではない。急進的保守派のヒルスデール大学は、クリスチャンホームスクーリングで教育を受けた生徒たちを積極的にリクルートしている。

 

 

 

 

 

フレデリック・クラークソンは、宗教右派グループ(キリスト教同盟から合同教会まで)について幅広く取材するライター、講演者である。著書には、『キリスト教右派への挑戦:活動家ハンドブック』(共著)、『永遠の敵意:アメリカにおける民主政治と神政政治の戦い』がある。

 

 

<訳者より: 以上は、あくまでも反再建主義者の主張であって富井個人の主張ではありません。再建主義が政治的な権力を求めることを民主主義の転覆であるとか、再建主義が述べてもいない陰謀説をひきあいに出して再建主義について悪い印象を与えようとの意図があると思われますが、アメリカの反再建主義者が再建主義をどのように評価しているか知ることも重要だという意味で載せたものです。>



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