『福音と世界』(2003年12月号)栗林輝夫氏のエッセイ「宗教右翼は神国アメリカをめざす――統治の神学、キリスト教再建主義、セオノミー」への反論 その10

 


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万物の創造者たる神は人間を神の代理者として造り、かれらに地上を統治させようとされた。ところが人間は誘惑にあってサタンに統治権を纂奪された。教会はサタンから地上の統治を奪還するために設けられた神の制度である。それゆえ教会はキリストの再臨に備えて、地上のすべてを教会の統治下に収めねばならない。立法、行政、司法といった社会的機関、経済はもとより娯楽産業といった公共文化の一切も含めて、それらを悪魔の手から奪回して清めねばならない。それが完了したとき、キリストは再臨されるにちがいない。

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「教会はサタンから地上の統治を奪還するために設けられた神の制度である。それゆえ教会はキリストの再臨に備えて、地上のすべてを教会の統治下に収めねばならない。立法、行政、司法といった社会的機関、経済はもとより娯楽産業といった公共文化の一切も含めて、それらを悪魔の手から奪回して清めねばならない。それが完了したとき、キリストは再臨されるにちがいない。」

「地上の統治を奪還するために設けられた神の制度」は「教会」だけではない。「地上の統治を奪還するために」存在するのは、まず「個人」である。神は、最初にアダムに対して「地を従えよ」と命令された。

ここで、「従えよ」という言葉の原語kabashは「足で踏みつける」というかなり暴力的な言葉が用いられている。これは、人間が統治するために与えられた世界が「一筋縄ではいかない」ことを暗示している(Theological Wordbook of OT, Moody Press)のと同時に、人間が王として征服者として立てられていることを示している。

この被造物支配は、キリストによって成就された。

「…あなたがたは、世にあっては患難があります。しかし、勇敢でありなさい。わたしはすでに世に勝ったのです。」(ヨハネ16・33)

ここで「勝った」と訳されている言葉νενικηκαは、「征服する」を意味するνικαωの完了時制である。ギリシャ語の完了時制は、「過去の動作の結果に基づいた現在の状態を表す」(J・グレシャム・メイチェン、『新約聖書ギリシャ語原典入門』、新生運動協力会)ので、この発言は、「すでに世を征服して、現在、征服の状態にある」ということを意味する。つまり、聖書は、イエスが<現在>世を征服しているということを強調している。


アダムに被造物征服の使命が与えられた後に、エバが「助け手」として与えられたので、「家庭」も「地上の統治を奪還するために設けられた神の制度」である。

どうも、栗林氏の論の進め方を見ると、我々のことを「教会に絶対的な権限を与えようとする教会至上主義者」として描こうとする意図が見られるが、我々はそんなことを言っていない。

聖書において、「教会」は誤解を受けやすい言葉である。キリストの体として描かれている教会の原語εκλησιαは、「召しだされた者」、つまり、クリスチャンの群れ全体を表しており、制度的な地方教会はその一部でしかない。

このεκλησιαの旧約聖書の対応語edhahやqahalは、「会衆」「集会」「契約の民全体」を指し、当然、そこに含まれる御民の政治秩序、宗教秩序、軍隊等をも意味する言葉である。つまり、教会とは、「キリストを王としていただく神の国」なのである。

もしこのような語義を認識した上で「教会は地上の統治を奪還するために設けられた神の制度である」と言うならば納得できるが、単なる「制度的地方教会」に最高統治権を与えると考えているならば、我々を教皇至上主義者のようなものと誤解していると言える。

我々は、この世界を何か特定の人々や集団に特権を与えることを目指すのではなく、伝道と教育によって、人々が自発的に神の法に従い、あらゆる制度を聖書の基準にしたがって運営するようになり、すべての制度がキリストを王として従う世界を目指しているのだ。

この場合、家庭の代表は家長であって、教皇のような人物が家庭の中にずかずか入り込んで命令したりはしない。家庭は、家長の指導のもとで一致して家庭に与えられた聖書の命令に従うことによって、キリストを王として礼拝する。制度的地方教会は、教皇のような人間からいかなる干渉も受けずに、キリストを王として礼拝し、キリストが教会に与えた命令を守ろうとする。国家は、教皇のような人物の干渉を受けずに、聖書が国家に命じた命令に従うことによって、キリストを王として礼拝する。

制度的地方教会に主権を持たせようなどという運動は、人間が神の代役となり、キリストの王権を強奪しようとする試みであって、断固として退けなければならない。

 

 

2003年12月13日

 

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