今は、戦後の日本の体制が試されている時

 


先日、放送大学の授業を見ていたら、講師がエントロピーの法則について述べていた。

エントロピーの法則によれば、閉じられた系の中でエントロピーは不可逆的に増大するという。たとえば、水の上にインク滴を落とすと、拡散していく一方である。乱雑さは増す一方であり、エネルギーは均一化に向かい、氷は溶けて、室温の水に変わる一方で、その逆はない。

しかし、この法則を宇宙に適用するならば、進化を主張できなくなる、という。

もし宇宙が閉じられた系であるならば、宇宙の中でエントロピー増大の法則に逆らう現象は一切起こらないはずだ。つまり、進化はあり得ない。

しかし、実際は宇宙は進化しており、最初、均一だった物質がビッグバンにより急激な膨張を示して、次々と元素が生まれて、現在のような体系だった宇宙が出来上がったではないか。これはなぜだろう、と。

そこで、この講師は、重力という要素を加味すれば、エントロピーの法則に従わない進化という事象を説明できるという。

いろいろと複雑な数式を出して説明していたが、難しくて理解できなかった。

恐らく、物理学などの素養のあるクリスチャンが聞けば理解できるのだろうが、私は文科系で、数学は高校の数UBしかやっていない。

私の印象では、この説明はウソだ。

どこかにごまかしがある。

私は、宇宙に対して外部からの力が一切働いていないという仮定を立てれば、どうしても、宇宙の中において進化はあり得ないだろうと思う。(*)

神抜きで、「ただひたすら偶然だけに頼って」宇宙の成り立ちを説明するならば、どうしても、宇宙の中における高度なシステム(例:太陽系、生物、など)の存在を説明できないだろう。進化は、「安定化」や「平衡化」に逆らう出来事である。川が谷から山頂に逆流するようなものである。

私は、歴史の中において何度か起こったリバイバルは、神が宇宙の外から宇宙に対して働きかけた結果として起こることを例証しているように思えるのである。

ジョン・ウェスレーの伝道によって、炭鉱夫の酒盛りが祈祷会に変わったのは、川の逆流と同じような出来事である。水が低きに流れるように、人間の心は聖霊の働きがなければ、堕落のほうに向かうのである。それを高きに引き上げるのは、強烈な外力が働いたからである。

イギリスは、ジョン・ウェスレーの登場によって、それまで永遠のライバルとされていたフランスを大きく引き離すことに成功したと言われている。イギリスはリバイバルによって国内の体制が安定し、産業革命への道が開けた。しかし、神を否定したフランスは、革命によって血で血を洗う状態になり、ついに収拾がつかなくなって、ナポレオンの独裁を生み出した。

イギリスの市民革命が成功し、フランスの市民革命が失敗した大きな理由は、「国内を倫理的に高めることができたかどうか」という点にあると思う。

国民の倫理性が高く、自分で自分を統治できれば、国家の介入を防ぐことが可能なのである。イギリスは、キリスト教によって倫理を維持することに成功したが、フランスは、人間理性への信頼によって、超越的原則(宗教)が否定され、それによって、逆に無政府状態が出現した。この無政府状態を終わらせて秩序を築くには、強力な単一のリーダーシップが必要だった。ナポレオンは社会的要請によって生まれた人物である。

今日でも、イギリスやアメリカと比較して、フランスが官僚主導的なのは、国民が自分を統治できず、国家による強力な介入を許したという過去があるからだと思う。

人間の心は放置されると、次第に乱雑さを増してくるのである。自分に甘くしていると、どんどんと、規律が崩壊していく。規律を守れない人は、誰からも信頼されず、それゆえ責任を与えられない。責任を与えられない国民が大多数である場合、体制を維持するためには、エリート官僚が国民生活の細部にまで口を出して規制せざるを得なくなるのである。

植民地化の問題は、列強の侵略という要素も大きいが、被植民国の側の「自己統治能力の欠如」の要素も大きいのである。アジア・アフリカが列強に支配され、搾取されたのは、スキがあったからでもある。泥棒の被害にあった場合、たしかにその責任の大半は泥棒にあるが、侵入を許した自分の側にも非があるのと同様である。

日本において、「規制緩和」が叫ばれているが、「規制緩和」の前提には、「国民の自己統治力」がなければならない。そうしなければ、日本は崩壊する。自分を治めることができない子供に自由を与えると、勝手なことをして、めちゃくちゃになってしまうように。欧米の「自由放任」の体制は、キリスト教という人々の心に規律を生み出すような精神的支柱があったから成立していたのである。

ただ外面的に自由を与えても、道徳がなければ、混沌に巻き込まれるだけである。

今は、戦後の日本の体制が試されている時だと思う。


(*)
エントロピーの法則に従えば、宇宙の中に現在存在する様々な熱やエネルギーの偏りは、いずれ平衡化され、均一化されるはずだ。密閉された部屋の中で極端に寒い場所(たとえば、氷の塊がある場所)の気温が次第に室温に近づいていき、熱の高いところ(たとえば、ストーブのある場所)の気温が低くなり、最終的には部屋のどの場所も同じ温度になるように、宇宙の中でエネルギーの高い所は、低いほうに向かい、低い所は高いほうに向かい、最後には宇宙全体は均一・平衡のエネルギーの状態になるはずである。この原理から逃れるものは一つもないはずである。

これは確率の原理から導き出されるのである。ある密閉した空間に、気体分子を一列に並べることができるとしよう。時間がたつうちに、この気体分子はその空間に均一に分散する。なぜかというと、気体分子の運動の方向は一定でないからだ。気体分子はどの方向にも移動する。磁場とか重力などの外部からの影響がまったくないのだから、気体分子はすべての方向にランダムに移動する。一時的に、ある一部に気体分子が集まるかもしれない。しかし、長い時間がたてば、運動の方向にある一定の力が働いて影響を与えていない以上、確率の原理にしたがって、空間に均一に分散するはずである。


 

 

2003年08月06日

 

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