マルクシズムの起源 8


マルクスの友人であり、協力者であった、フリードリヒ・エンゲルスは、敬虔なクリスチャン家庭に育った。まだクリスチャン的な影響を持っていた彼が、最初にマルクスと会ったとき、彼の印象を次のように記している。


…トリア出身の黒い人、驚異の怪物。歩きもせず、走りもしない。飛び跳ね、怒り狂う。あたかも、天蓋をつかんで、それを地上に投げ捨てんばかりだ。腕を伸ばす。邪悪なこぶしをしっかり握りしめ、絶えず怒りののしる。まるで無数の悪魔が彼の髪をつかんでいるかのようだ。
(Franz Mehring, Karl Marx--Geschichte seines Lebens (Berlin: Dietz-Verlag, 1964), pp. 99, 100; cited in ibid., p. 36.)

エンゲルスは、自由主義神学者ブルーノ・バウアーの著書を読んでから、キリスト信仰を疑いはじめた。彼は心の中に大きな葛藤を覚えていた。

私は毎日、ほとんど一日中、真理を求めて祈っている。疑いを抱いてからずっとそのようにしているのだが、まだ信仰に戻ることができない。このように書いている間も目から涙が流れ落ちる。
(Ibid., p. 97; cited in ibid., p. 36.)

エンゲルスは、ついに信仰に帰ることはなかった。むしろ、かつて「無数の悪魔に髪をつかまれている怪物」と呼んだ人間の仲間となった。

エンゲルスから信仰を奪ったブルーノ・バウアーとは一体どのような人物なのだろう。
バウアーは、はじめ保守派の陣営にあり、聖書批評家と戦っていた。しかし、後になって、自分自身が聖書を批評するようになり、イエスは単なる人間に過ぎず、神の子ではない、と言い出した。彼は、マルクスとエンゲルスの共通の友人であるアーノルド・ルーゲに宛てた手紙(1841年12月6日付)の中でこう語った。

この大学で、私は、大勢の学生の前で講義をしている。教壇から冒涜の言葉を述べる時、私は自分ではなくなっている。冒涜の言葉があまりに激しいため、…学生達の髪の毛はずっと逆立ったままだ。冒涜の言葉を吐きながら、私は、自宅での自分の姿を思い浮かべている。聖書を弁護するために、敬虔な気持ちで文章を書いている姿を。とにかく、教壇に上るたびに、悪魔に憑依されるのだ。私はとても弱い。どうしても悪魔に負けてしまう。…教授として、権威を帯びて公然と無神論を講義しない限り、私のうちにある冒涜の霊は満足しないのだ。
(Bruno Bauer, letter of December 6, 1841 to Arnold Ruge, MEGA, I, 1 (2), p. 263; cited in ibid., p. 37.)

マルクスと同様、エンゲルスに共産主義者になるように説得したのは、モーゼズ・ヘスであった。コロニュでエンゲルスと会った後で、彼は次のように述べた。

別れる時に、彼は熱心な共産主義者に変わっていた。これが、私の破壊のやり方だ…。
(A Melskii, Evangelist Nenavisti (Berlin: Za Pravdu Publishing House, 1933, in Russian), p. 48; cited in ibid., p. 37.)

クリスチャンの信仰を破壊することが、ヘスの人生における最高の目的なのか?なんと悪魔的なのだろう。
若い頃、エンゲルスは、次のような詩を書いた。

神のひとり子なる主イエス・キリスト、
ああ、天の御座から降りてきて
私の魂を救ってください。
まったき幸いのうちに、
御父の聖き光のうちに、降りてきてください。
私があなたを信じ受け入れることができるように。
なんと心地よく、栄光に満ち、幸いなのだろう、
救い主なるあなたをほめたたえる時に得られる喜びは。

私が最期の息を引き取る時、
死の苦しみを耐えなければならない時、
私があなたに固くつながっていられますように。
私の目が暗闇に覆われ、
私の心臓が鼓動を止め、
あなたにあって、私の体が冷たくなっていく時に、
私の霊が天において、
あなたのうちに安らかなあなたの御名を
永遠にほめたたえることができますように。

ああ、喜びの時がすぐに来ればよいのに。
あなたの愛の御胸から、
躍動する新しいいのちを引き出すことのできるその時が。
その時、ああ神よ、私は、あなたに感謝しつつ
愛する人々をこの腕の中で永遠に抱きしめることでしょう。
永遠に生きておられる主のために、
私の命は新たにされるでしょう。

主は人間を死と罪から解放し、
全地に祝福と幸いをもたらすために来られる。
その時、あなたの新しい子孫はみな、
地上においてまったく新しくされるでしょう。
あなたは各々に御自身の分け前をお与えになるでしょう。
(Friedrich Engels, letter of July 1839 to the Graber brothers, p. 531; cited in ibid., p. 39.)

ブルーノ・バウアーによって疑いを植え付けられた後で、エンゲルスは、何人かの友人に手紙を書いた。

聖書には、「求めなさい。そうすれば与えられます」と書かれている。真理のひとかけらでも見つけることができそうな時は、私は必ずそれを捜し求める。しかし、私はあなたがたが説いている真理が永遠のものであると考えられないのだ。しかし、「探しなさい。そうすれば、見つかります。自分の子供がパンを求めている時に、石を与える親がいるだろうか。まして、天におられるあなたがたの御父があなたがたによくしてくださらないことがあるだろうか」ともある。

このように書いている間にも、目には涙がこみ上げてくる。心は[疑いによって]すっかり揺り動かされてしまった。しかし、自分が失われるとは思わない。私は、魂が慕い求める神のもとに帰るだろう。このことも、聖霊の証である。その証によって、私は生き、また死ぬ。…御霊は、私が神の子供であることを証言している。
(Ibid., Friedrich Engels, letter of July 1839 to the Graber brothers, p. 531; cited in ibid., p. 39.)

エンゲルスは、サタニズムの危険性を十分に認識していた。『シェリングと黙示録』の中でこう述べた。

恐るべきフランス革命以来、まったく新しい悪霊が人類の中に入り、不信仰が非常に大胆かつ巧妙に侵入している。そのため、私は、現在、聖書の預言が成就しつつあると思うのだ。まず、終わりの時の背教について聖書がどのように述べているか見てみよう。主イエスは、マタイ24章11-13節において次のように言われた。「また、にせ預言者が多く起こって、多くの人々を惑わします。不法がはびこるので、多くの人たちの愛は冷たくなります。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われます。」そして、24節で、「にせキリスト、にせ預言者たちが現われて、できれば選民をも惑わそうとして、大きなしるしや不思議なことをして見せます。」と言われた。また、聖パウロは第2テサロニケ2章3節において「だれにも、どのようにも、だまされないようにしなさい。なぜなら、まず背教が起こり、不法の人、すなわち滅びの子が現われなければ、主の日は来ないからです。彼は、すべて神と呼ばれるもの、また礼拝されるものに反抗し、その上に自分を高く上げ、神の宮の中に座を設け、自分こそ神であると宣言します。…[不法の人の到来は、]サタンの働きによるのであって、あらゆる偽りの力、しるし、不思議がそれに伴い、また、滅びる人たちに対するあらゆる悪の欺きが行なわれます。なぜなら、彼らは救われるために真理への愛を受け入れなかったからです。それゆえ神は、彼らが偽りを信じるように、惑わす力を送り込まれます。それは、真理を信じないで、悪を喜んでいたすべての者が、さばかれるためです。」と述べた。

さらに、

我々は、主に対して無関心や冷淡であってはならない。絶対に。これは公然たる敵意である。今や、あらゆる教派や党派の中に見られるのは、「クリスチャン」か「反キリスト」のいずれかだ。…我々の周りには、にせ預言者がいる。…彼らはドイツ中を旅し、いたるところに忍び込もうとしている。彼らは、市場においてサタンの教えを伝え、サタンの旗をかかげて町から町へと移動し、哀れな若者をたぶらかし、彼らを地獄と死の深淵の中に放り込もうとしている。

そして、この本を黙示録の言葉で締めくくっている。

見よ。わたしは、すぐに来る。あなたの冠をだれにも奪われないように、あなたの持っているものをしっかりと持っていなさい。アーメン。
(Friedrich Engels, Schelling und die Offenbarung, MEGA, pp. 247-249; cited in ibid., p. 40.)

このようにサタニズムの危険について警告を発し、敬虔な詩を書き、涙ながらに自分の救いについて祈ったクリスチャンが、マルクスの親友となり、世界において一億人を粛清・虐殺する運動の指導者になったとは、なんという悲劇だろう!

我々から信仰を奪い、悪業に引き込むきっかけを作るのは、聖書に対する疑いである。
サタンの方法は、エデンの園以来、変わらないのである。

 






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『マルクシズムの起源』について





 

2004年1月25日

 

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